部品メーカーの国際再編とアフターマーケット

 自動車メーカーの国際的な再編が進む中で、欧米のアナリストの間ではグローバルな生産台数が年間400万台ないと生き残れないという意味で「400万台クラブ」という言葉が使われている。
 一方、部品メーカーは「グローバルな売上規模が年間ビリオン(1兆円)ないと一次サプライヤーとしては生き残れない」という意味で「ビリオンクラブ」という言葉があるそうだ。部品メーカーにとって環境問題への対応など基礎研究分野に多額のコストがかかるため、開発・生産コストを下げるには規模のメリットを追求することが重要になっている。
 こうした中で、近年の欧米部品メーカーの再編は急速に進み、多くのメガサプライヤーが出現した。
ひとつはGM、フォードの部品内製部門の独立だ。GMから独立したデルファイは世界最大の総合部品メーカーとなった。フォードから独立したビステオンはこれに続く世界第二の規模である。これに加え、特に米国の大手部品メーカーによる積極的なM&Aが展開された。リアー、フェデラルモーグル、デーナ、TRW、ジョンソンコントロールズといった米国メーカーは、米国内及び欧州の中規模部品メーカーを次々と買収し、メガサプライヤーへと成長した。また、欧州ではヴァレオが積極的なM&Aを推進している。
 部品メーカーの合従連衡は自動車メーカーの購買政策の変化に対応したものだ。米国の自動車メーカーは部品メーカーとの取引関係に日本型のスタイルを導入、直接取引きする一次メーカーを絞り込んだ。選ばれた一次サプライヤーは長期継続取引の中でより多くの納入機会と責任を負い、二次、三次のサプライヤーを傘下に集約した。さらに自動車メーカーはグローバルレベルで最適なサプライヤーからまとめて購買を行なおうとする。これに対応して部品メーカーの国際的な再編が加速した。
 国際再編は日米欧の3極でアライアンスを組む相互補完から始まった。第1ステップはOEの現地生産である。自動車メーカーは部品メーカーを現地に連れて行って生産させたかったが、それだけのボリュームがなく採算が合わないので、部品メーカーが現地の部品メーカーとアライアンスを組むことになった。第2ステップは日米欧のスペシャリスト(一つの分野に秀でた技術を持つ専門メーカー)が手を組み、他にはないスペシャリストとしての強みを打出す動きである。第3ステップとしては、デルファイのように全世界の製品をローコスト地域に集めて一括生産する方法だ。中国、東南アジアが新しい生産基地として注目されているが、今後はこの方法が主流になっていくのではないかと見られている。
 以上に動向はOE部品の生産に関係したものだが、アフターマーケットパーツについても、大規模な業界再編が起きている。欧米のアフターマーケットパーツの有力ブランドはすでに米国大手OEメーカーに買収されている。
 例えばフェデラルモーグルの主力商品はエンジンの主要部品であるピストン、ピストンリング、カムシャフト、軸受ベアリング、ガスケット、オイルシール、トランスミッションなどである。しかし、チャンピオン(プラグ)、ワグナー(ライト、ブレーキパッド)、ムーグ(サスペンション、ステアリング)、フェルプロ(ガスケット)など米国アフターマーケットの有名ブランドを買収、さらにOE主体のエイベックスも傘下にあり、ワグナーとエイベックスを合わせるとアフター用ブレーキパッドでは米国トップとなる。さらに欧州ではアフター用ブレーキパッドの最大手であるフェロードも傘下に収めている。一方、デーナもエクリンなど米国で最も伝統あるアフターマーケット専門メーカーを傘下に収め、着々とグローバルなアフターマーケット戦略を推進している。
 こうした世界のメガサプライヤーに比べると、わが国の部品メーカーではデンソー、アイシン精機が売上規模で互角となっているだけで、大手でも年間数千億円規模の売上しかない。日本の部品メーカーの中には、この「企業規模の格差が競争力の格差につながるのではないか」という不安があるという。アフターマーケットで言えば、自動車業界の国際再編により部品の共通化が推進されれば、新規参入の機会が増え大手が有利となる。現状ではわが国の補修部品市場規模が保有台数に比べて小さいこと。部品の共通化が図られていないことなどにより、海外部品メーカーの参入メリットは少ないが、今後のアジア市場を睨んだアフターマーケット戦略を構築するには、日本市場は重要であろう。いずれにしても部品メーカーの技術面では日本が上だが資本力やマーケティング能力は米国企業のほうが上である。すでに兆候は出ているが、今後は日本の部品メーカーを組み込んだ国際再編も予想される。
(編集長 白柳孝夫)