ネット販売の本質は流通合理化より顧客満足
インターネットの急速な普及を背景に、電子商取引が本格的に立ち上がってきた。自動車業界でも昨秋よりオートバイテル、カーポイントの米国系大手2社が営業を開始した。中古車販売でもガリバーインターナショナルなど買取り大手がネットを活用したビジネスで急成長を遂げている。さらに、日石三菱、コスモ石油など石油元売り各社も傘下のGSS網を使った部品・用品のインターネット販売に乗り出すなど、多様な動きが出てきている。
最近の新聞・雑誌はこうしたネット関連のニュースが満載されており、毎日「これでもか、これでもか」と伝えられる電子商取引関連のニュースを聞かされると、中には反発する人たちも出てくる。
実際、多くの人たちがネット革命の進展に将来の不安を感じる一方で、その市場拡大については極めて懐疑的な意見を持っている。
「広大な国土を持つ米国では小売店に行くにも時間がかかり通信販売が普及した。日本では近くに小売店があるので、必要なときに買いに行けば良い」、「日本人は商品の質感を大切にするので、実際に目で見て、触れてから商品を選択する。web上の情報だけで商品を購入することは少ない」というものだ。
また、多くの学識者がネット販売を流通合理化の一環として捉えていることにも反発が生まれる。
中間業者が不要になり「メーカーと消費者がダイレクトにつながる」という説は日々、膨大な物流に取り組んでいる流通業者にはあまりに非現実的な話に聞こえる。
おそらくネット販売は流通の合理化とは関係ないのでないか――と私は思っている。ネット販売の結果として物流が合理化されることもあるが、合理化を目的にネット販売に取り組めば失敗するだろう。
現実の話としてネット販売を始めようとすると、直ぐに厄介な問題に突き当たる。
まず、第一にテリトリーの問題である。従来は限られた地域の商圏を対象にビジネスを展開していれば良かったが、ネットでは注文があらゆるところからやって来る。
町境、市境、県境はもちろん、国境も関係ない。例えば海外からの注文を「当社は日本国内の○○県を主な販売地域としています。注文は貴国内の販売代理店にお願いします」と言って断るわけにはいかないだろう。「それならネットで宣伝するな」と言われてしまう。
さらにネット販売には営業時間がない。24 時間、ある時には集中的に、ある時は散発的に問い合わせや注文、さらに苦情が飛び込んでくる。こうした新たな仕事をどのように的確かつ、効率的に処理していくかが課題となるだろう。
すでにネット販売が最も進んだパソコン業界は、昨秋からほとんどのメーカーの問い合わせ窓口がパンク状態で電話が掛かりにくい状況となっている。急速に拡大する仕事量に人員体制が追い付けないためだ。
さらに、ネットによる注文に、どのような物流体制で対応するのか。料金の回収はどうするかなど、解決すべき課題は多い。現在、宅配業者がネット取引により新たに生まれた物流ニーズへの対応を推進しているが、これが市場に定着するまであとしばらくは掛かるだろう。
このようにネット販売は新たな物流ニーズを発生させる。これが合理化になるかどうかは後の判断を待つしかないだろう。
ネット販売の本質は、こうした合理化ではない。むしろ大切なのは販売する商品だ。どこにでもある商品ならネットで探す必要はない。消費者は自分にピッタリの商品を求めてネットサーフィンを繰り返すのである。ネット販売は「特殊なニーズを持つ顧客に対し、個性的な商品を提供して、従来の買い物では得られなかった最高の満足を顧客に与える」ことにある。
ユーザーニーズの多様化の中で、自分の欲しい商品が近くの小売店で入手できない状況が続いている。また、現在の小売店がインターネットで得られる以上の情報を顧客に対して発信できない状態が続く限り、今後のネット販売の拡大が予想されるのである。
(編集長 白柳孝夫)