自動車のリサイクルを推進するために、補修部品市場での中古部品の利用を促進することが必要であるとされている。中古部品は廃車などから取り外し、そのまま利用するもので、部品の原料に戻したり、燃料として使うよりも環境への負荷が少ないと言える。
さらに、廃車の適正処理など環境対応を図るため高コスト構造となっている解体業者は、安定的な収益源として中古部品の販売に注目している。自動車リサイクルの分野に新規参入した諸企業も、中古部品の収益を重視した事業計画を立案している。
このように中古部品への業界の期待は大きいが、一方で使用する側の整備工場の意識は二分化している。中古部品は新品部品と異なり、その状態は一品一品異なる。状態の良い物に当たれば良いが、悪い物に当たれば修理に手間取り、新品部品を使うよりコストがかかってしまう。すでに実施されたアンケートの結果でも、良い部品に当たった整備事業者は中古部品に好イメージを持ち「今後も積極的に使用したい」としているのに対し、悪い部品に当たった整備業者は「二度と使用したくない」と不信感を顕わにしている。
今後、従来からの中古部品専門業者に加え、解体業者からの中古部品の供給も増加する環境にある。また、中古部品の販売についても既存のNGPやビッグウェーブなど中古部品流通業者のネットワークに加えて、翼システムのカーコンビニ倶楽部、システムジャパンのAOS(オートモービル・オンライン・サービス)など整備工場や板金・塗装工場を結ぶインターネットを活用した数々のサイトが立ち上がり始めている。
このように中古部品の供給が増加し、販売チャネルも多様化が進む中で、未だにサプライヤーサイドには統一的な品質基準、等級基準や、消費者保護に関わる標示基準などガイドラインが作られていない。品質の悪い中古部品が市場に流通する可能性も増えている中で、これが中古部品全体のイメージダウンにつながる恐れもある。今後、消費者や取り扱い業者の不安感を一掃し、市場の健全な拡大、活性化を図っていくためには、早期に業界統一の品質基準を策定し、これを市場に定着させる必要がある。
しかし問題はそう簡単ではない。欧米の例でもリビルト部品の品質基準は確固としたものがあるが、中古部品については覚書程度のものしかない。
リビルト部品はインナーパーツなど消耗部品を交換して、新品並みの性能を保証するため品質基準を作りやすい。これに対し中古部品は「何も手を加えない」ところに利点があるわけだから、品質はそれぞれバラバラで基準が作りにくいのである。
車の使用条件が厳しく、平均車齢の高い米国ではリビルト部品が中心で、中古部品の地位は低い。これに対し、年間走行距離も短く、 年ぐらいで廃車にしてしまう日本では手間をかけてリビルトしなくとも中古部品で十分に使える。さらに部品の共通化が進んでいない日本では、インナーパーツの供給面での効率が悪いだけでなく、リビルトされた部品の適応車種も限られている。人件費の高い日本で手間をかけてリビルトしても、市場は限られているのである。
こうした日本の現状の中でリサイクルを推進するには、当面は中古部品を伸ばしていくしかないだろう。今後、車両の設計面で部品の共通化が推進されれば、将来的にはリビルト部品の可能性も大きくなるだろう。
◆品質基準のあり方
先ほど述べたように中古部品は、廃車等から回収し「手を加えない」で使用するところに利点がある。
回収した部品の中でも、需要のあるものは限られている実情の中で、あまりに厳密な品質基準を策定すると、使用できる部品が限定され、さらに供給率が下がってしまう。
中古部品の品質基準は「使用によるトラブルの発生を防ぐ」ことを眼目にすべきである。これと併せて、一品一品の状態の異なる中古部品の商品説明を使用者に確実に伝えるシステム、さらに消費者への説明、標示義務も求められる。特に、今後必要となるのは消費者保護の観点である。中古部品も、リビルト部品も車両に組付けてしまえば新品部品と区別するのは難しい。中古部品が新品部品の価格で販売されることも充分に考えられる。これは米国においても消費者からの苦情に応え、連邦取引委員会は、中古・リビルト部品の販売に関する複数の指針を発表していることからも予想される事態である。
いずれにしても、わが国の業界としてサプライヤー責任を明確にすることで、政府などの規制によらない自立的な中古部品市場の発展を目指す必要がある。関係者の早急な対応が望まれる。
(編集長・白柳孝夫)