「ここ数年で私の競争相手であった会社は、ほとんど米国の会社に買われてしまいました。
米国の会社はもともと大きな会社だったのですが、欧州の部品メーカーを買収して、さらに巨大になりました」。
10月の中旬から一週間、JETROの企画でスペインの部品メーカー数社を訪問し、最後にバルセロナで日本の自動車産業に関するセミナーで講演した
この時に多くのスペイン部品メーカーのトップと懇談の機会を得たが、冒頭の言葉はスペイン自動車部品工業会の会長であるFICOSA社のプジョール会長との懇談で出てきたものだ
90年代を通じて欧米の自動車メーカーの部品購買戦略が大きく変化した。特に米国自動車メーカーは、従来は内製してきた部品を、まとめて部品メーカーに外注することにより、自動車メーカーと部品メーカー間の労賃格差を活用し調達コストを削減、自らの投資を効率化することができると考え、アウトソーシングを進めた。さらに取引先部品メーカーを絞込み、世界最適調達をスローガンに国境の枠を超え、グローバルレベルで、最も競争力にあるサプライヤーから、まとめて購買するように変化してきた。こうした中でGM、フォードからデルファイ、ビステオンという巨大な部品メーカーがスピンオフした煽りもあり、米国の大手部品メーカーは、米国内から欧州のめぼしい会社を次々に買収し巨大化した。
一方、欧州ではEUの通貨統合により経済が一体化することに加え、東欧の自由主義経済体制への移行により、この地域の安い良質の労働力が脅威となってきた。特にドイツなどを中心に労働組合が強く人件費が高い、高コスト体質の部品メーカーは上記のような変化に対応できず、世界的なプレゼンスの拡大を目指す米国部品メーカーのM&Aのターゲットになった。
「今では私の競争相手は米国の会社という事になりますが、それは、もうお化けように大きな会社です」という、プジョール会長の言葉は、あまりにも巨大になったライバルの出現に困惑する欧州部品メーカーのトップの気持ちがストレートに伝わり印象的であった。しかし、同様に中小規模が多く中国等の安い労働力が脅威になりつつある、日本の部品メーカーのトップの気持ちも同様ではなかろうか。
そして、今後は部品メーカー間の合従連衡が進み、最終的には一番労働力の安い地域で集中的に生産し、そこから世界中に供給するというシナリオが考えられる。すでにパソコンなど電子機器分野では、これが実現しており、多くにパソコンメーカーは台湾や韓国製の部品を購入して組み付け自分のブランドを付けて市場に出しているだけの状態だ。
自動車業界にも同じシナリオが考えられるのだろうか。もし、そうだとしたら国内の雇用への影響は深刻だが、私が欧州で感じたことは、自動車はその背後に様々な地域の文化を引きずっており、パソコンのようにはいかないのではないかという点だ。小型・高性能で米国市場では強い日本車も、欧州の主要国ではシェア5%程度のマイナーな存在だ。これは、やはり欧州メーカーの強い競争力である。
スペインの部品メーカーも単なる価格競争では東欧に勝てないが、デザインや技術力、安定した品質と供給性を含めて考えると「良いものが安い」という意味で競争力がある。
自動車が地域の文化を背負っている以上、部品にはオリジナリティが求められる。オリジナリティは、それを生み出す企業のアイデインティティから生まれる。大手部品メーカーの競争力は強大だが、一方でM&Aで合併された部品メーカーでは、コアとなる従業員が離職し長年培ったノウハウと人脈が失われたといわれる。大手に対抗し生き残りを図るには、中小規模の部品メーカーが、各企業の個性や独立性を保持しながら世界的に提携することで、グローバルニーズへの対応を強化することが重要になる。
今回のセミナーの目的は日本とスペインの企業の交流を深め、具体的な提携に結びつける事である。口で言うのは簡単だが、それぞれの企業の個性も事情の異なり、良い提携先を探す「お見合い」は簡単には進まない。しかし、こうした地道な作業は必要であり、今後は効率良く総合的に推進する必要があるだろう。
(編集長・白柳孝夫)