昨年末に、業界に文字通り「降って湧いた」ように出現した装置リコール制度問題がいよいよ大詰めを迎えている。
国土交通省は本年1月25日から2月14日まで「自動車リコール制度の改正試案」に対するパブリックコメントを実施、さらに一部の工業会に説明会を実施した後、諸官庁との調整に入った。その後、今通常国会に提出される運びとなっている。
今回も4年前の装置認証制度の導入時と同様に、業界と国土交通省(当時は運輸省)との意見は真っ向から食い違っている。今回は「前回程の反対は無い」という観察が一部に流れたが、実際には、昨年末に至るまで業界に事前に説明も無く、反対する時間も与えず、制度の運営細部も明確にならないまま法制化しようという国土交通省の姿勢に、業界側はかなり怒っている。
今後、例え法制化が決まったとしても、日本の市場実態に合わせた制度の運営について、業界の意見を十分に取り入れて頂くよう、お願いしたい。
業界も自動車社会の安全を最も大切な課題と考えている。
問題はその実効性を上げる方策について「装置リコールという制度が有効なのか」「コストに見合ったものなのか」「既存の流通システムに影響を与える(一部の事業者に有利に働く等の理由)ものでないか」と疑問に思っているのである。
国土交通省は欧米でも装置リコールは存在する。これは世界の趨勢であり、日本の業界も甘えていないで、受け入れるべきであると言う感覚だ。
一方、日本の業界は「日本には補修部品や後付部品に対する規制が無くても、トラブル無くやっている。市場競争の中で、問題のある部品は淘汰されている」と考えている。
日本の市場も年以上前は粗悪な部品が流通した事があった。その後、業界団体が主体となり「不良品を作らない、売らない、使わない」という運動を推進してきた。この結果、現状では何かトラブルが発生すると、悪い噂は瞬く間に千里を走り、市場から排除されてしまう。そのため、外国製部品でも品質の劣るものは日本市場に入り難いのが実態だ。
例えば米国市場には東南アジア製の部品が既に数十年前から参入している。当然、日本市場にもアプローチがあり、実際に輸入された事もあるが、市場に定着するまで至らない。その前に市場から淘汰されてしまうからである。近年、日本の部品メーカーのアジア工場から輸入される部品は増えているが、この品質基準は日本の業者より高くコントロールされている。
これは、日本の整備工場の実力も影響している。米国では重要なトラブルの原因となる部品についてはインストーラ(交換者)を選んで販売する事もある。それほど、個々の整備工場の質に格差があるのだ。逆に日本は高いレベルで均質化しており、整備工場は顧客からのクレームの原因になると思われる部品は用心して使用しないのである。
業界では日本市場は高品質(過剰品質とも言われる)部品が流通していると感じているので、装置リコールと言ってもピンとこない。今回の装置リコール制度は、タイヤとチャイルドシートの2品目が当初の対象のようだが、具体的にこの2品目の不良による事故の発生件数と、近年の増加推移を公表して頂ければ、業界側も納得すると思われる。
特にタイヤは通関実績を見ても世界数か国から輸入されている国際商品だ。装置リコール制の導入で輸入量に影響が出るか注目される。
一方、ユーザーへのリコール情報の提供や広報は「国が中心となって取り組む」という事で、「リコール通知は流通卸や小売店までとなる」という報道がある。
しかし、リコール制度である以上、ある程度の回収率が必要となる。ユーザーへの個別通知をしないで回収率を確保できるのだろうか。
ディーラーでも車両登録時点のエビデンスは車両注文書明細欄に残るので探索は容易だが、それ以後の単品後付け部品の追跡は困難なのが現状。整備工場、カーショップ、ガソリンスタンド、ホームセンターなどでは、さらに困難と思われる。
いずれにしても「一定の回収率が確保できない」という結果が明らかになる頃には、流通業者において指定品目の販売先顧客名、連絡先を作成する工程が発生すると覚悟した方がいいかも知れない。古物営業法なみの対応だ。
それにしても、盗品の疑いのある中古品や質流れ品なら分かるが、世界中に流通しているタイヤやチャイルドシートが日本では「住所、氏名を明らかにしないと買えない」という奇妙な事にならないよう願うばかりである。
(編集長・白柳孝夫)