毎年、春になると健康診断に出かける。入社して20年近くは、「異常無し」が続いていたが、ここ数年は「再検査(精密検査)が必要」が連続している。
もっとも再検査の結果は、ありがたいことに「異常無し」で持ちこたえている。今までは余裕で「異常無し」であったのが、最近は体力に衰えが生じ、異常と正常の境界線をさ迷うようになったのだ。
この勤労者の定期健診は法律で義務付けられている。勝手に健診を受けない社員がいると会社が罰せられてしまう。健診は楽しいものではない。誰も喜んでバリウムは飲まない。義務付けないと「忙しいから受けない」「身体が丈夫だから受けないで大丈夫」と勝手な理由を付けて逃れてしまうからだ。
それでは何故、定期健診が必要なのか?病気は早期に発見することが重要で、「調子が悪い」「動けない」など自覚症状が出てからでは手遅れになっていることが多いのだ。
最近は国民の健康に対する意識も高まり「定期健診を受けたくない」という人は減少している。病院側も毎年、詳細なデータを前年、前々年との比較で提出してくれるし、「適正な血糖値は?」など、分析結果を理解するための資料、パンフレットも充実している。
このように人間の定期健診の評判は良くなったのに、クルマの定期点検の評判は、いっこうに良くならない。クルマの場合も不具合や故障が発生してからでは手遅れになっている場合が多いし、さらに走行中に故障が発生すれば事故につながる可能性も高い。
万一に備えて実施する点では同様なのに、これだけ差が出るのは人間の病院のようには、クルマの病院は努力してないのではないか。特に点検項目や判断基準の説明の面では大いに遅れていると思われる。ユーザーが点検結果データを読み取れる説明資料などもっと充実すべきである。
◎メンテナンスのあり方
車両のメンテナンスにおいて一時期に集中して点検し、悪い部分を予防も含めて直しておくのが良いのか、調子が悪い時に工場に飛び込んで修理するのが良いのか。
世界の主要な整備市場においてレギュラー・チェック(定期点検)がメイン商品になっている事からも、この答えは明確ではなかろうか。
やはり一時期に集中して点検整備した方が費用は少なくて済むようである。例えばディスクパッドを交換する場合も、まずクルマをジャッキアップして、タイヤを外してから交換作業になる。その過程で下回りの点検もできるし、タイヤの状態(片減り等)、ドライブシャフトブーツの亀裂もチェックできるが、ディスクパッドだけの交換を頼まれた場合は、そこまで実施しない。工賃は作業時間に比例して発生するので、もったいない話なのである。
米国のカーショップ視察では「ディスクパッド交換」のメニューは売り物にならないのか存在しなかった。変わりに部品交換(ブレーキフルード、ディスクパッド)と足回り点検をパックにした「ブレーキスペシャル」がメニュー化されていた。
整備工場のレギュラー・チェックメニューはエンジン、操縦系統、電装品まで含めて点検し300ドル〜500ドルの価格設定である。ただし、これは点検だけの料金で部品代と交換工賃は含まれていない。
在米の日本人の多くは「あの素晴らしい日本の車検制度が、こちらに無いのが残念」と嘆くが、米国人に「日本では部品交換まで含めて500ドルで収まり、さらに下回りも洗車されている」と言えば「何て安いんだ」と目を輝かせるだろう。
日本の車検整備は国際商品として十分に通用する。後はユーザーとの接点を改善する課題に挑戦することである。
(編集長・白柳孝夫)