自動車検査・点検制度に関する基礎調査検討会で審議されている自家用乗用車の車検延長問題は、あと数ヶ月のうちに一定の結論が出されるだろう。
車検制度が問題になると諸外国の検査制度や点検整備の実態との比較が行われる。今回も同様の調査が行われ資料として発表されている(詳細は20ページ参照)。
今回はユーザーへのアンケート調査により日本及び欧米諸国の年間点検整備費用が調査された。
これによると伊国の57万円が最も高く、米国は54〜55万円、独国が50万円、仏国が47万円。日本は37万円である。
規制緩和推進派の方々は、車検制度があるから日本のマイカーのメンテナンス料金は高くなっていると主張しているが、これは実態とは異なっている。車検制度があるから必要最小限の予防整備が実施され、メンテナンス費用は低く抑えられているのである。
また、車検整備市場への参入者が多く(多過ぎる)、常に過酷ともいえる競争が行われ、結果として価格は常に低下傾向にある。その結果、メカニックの平均給与も専業工場で約370万円(平均年齢は44・7歳)と、他の業種と比較しても、かなり安い水準である。
◆米国の整備料金
筆者は 年の車両法改正時に規制緩和後の市場動向を知るヒントを掴むため、何回か米国のアフターマーケットを視察した。この時に長くこの地で生活している日本人の方々に話を聞いたが、多くの方が日本の車検制度を懐かしがり「あの素晴らしい車検制度」と賞賛していた。
これは単なる望郷の思いだけではない。例えばディーラーでは3千マイル(約4800km)、1万マイル(1万6000km)、10万マイル( 16万km)の定期点検サービスメニューがあるが、この価格は安いので80ドル。高くなると400ドル、500ドルもする。しかも、これは点検料だけで、点検の結果、部品交換が必要なら部品代と、その交換に係わる工賃がプラスされるのである。
シカゴの部品販売会社の日本人社長は「私の会社の従業員が最近、ディーラーで3万マイル点検(339ドル)を受けた。どのような整備をしたのか確認するためジャッキアップして調べたが、日本のように黄ペンで印が付いている訳ではなく、アンダーコートが塗ってある訳でもない。『いったい何をしたのだろう』という感じだった。
それで、いくら払ったか聞いてみると部品代を入れて結局400ドル以上払っていた。日本の車検の方が遥かに安いなという感じだ」と話していた。これは95年頃の話で、既に日本の車検整備から「黄ペン」は消え、「アンダーコート」も一般的ではなくなった。
ディーラーの定期点検の話を聞いたので、整備工場の事例も調べて見た。サンフランシスコの外国車専門整備工場では1万5千km点検(20項目)で200ドル(点検料)であった。サンフランシスコは坂の多い町で、入庫車両は殆どディスクパッドを交換するので、部品代込みの最終的な整備料金は、やはり300〜400ドルになるとのことだ。
しかし、問題は定期点検の料金ではない。多くの整備工場の入庫車は故障修理なのである。予防整備に比べて故障整備が高く付くのは、どこの国でも同様だ。ユーザーは車が動かないと会社にも行けないから、なんとか直して欲しいと懇願する。工場側は強気で「適正な料金」を請求できるのである。
冒頭で紹介した諸外国との点検整備料金の比較には、彼の地で頻発している故障修理の料金は含まれてはいないのである。
米国でDIYが発展したのは「クルマいじり」の好きなユーザーが多いからと聞かされていたが、現地に行くと「整備料金が高いので、払えない人は自分で修理するしかない」からだという。こうしたユーザーが購入する部品は品質よりも購入可能な「安さ」が重要なのである。
こうした話を思い出すにつれ、日本の車検制度はどうなるのだろうと思う、今日この頃である。
(編集長・白柳孝夫)