故障とメンテナンスの関係
自動車にはメーカーの保証が付いている。保証期間の間に故障すれば無料で修理してくれる。
この制度が欧米で生まれたのは、自動車も機械であり初期故障が多かったのが理由ではないか。機械の故障率はバスタブ曲線を描くことが知られている。初期は故障率が高く、時間の経過とともに減少していく。その後の偶発故障期は故障率が一定であり長く続く、やがて摩耗・故障期に入ると故障率は増加していく(図参照)。
もう、かなり以前の話だが「この車は新車だから良く故障する」という話を欧米視察時に聞いた。新車を購入し、乗っているうちに様々な不具合が出てくる。それをディーラーに持ち込んで、一つ一つ修理していくと、徐々に落ち着いてくる。そして2、3年後には故障の無い快適で調子の良い車になる。ユーザーも「そういうものだ」と思っているので、故障に立腹している様子はない。
「とにかく細かな部品が頻繁に故障する。それを順に新しい部品に交換してもらえば、どんどん故障が減って安定する。この初期の時期が終われば、今度は殆ど故障しなくなる」とユーザーは話していた。部品の品質管理水準が低いと、たまたま悪い部品に当たったユーザーは初期故障に遭遇する。自動車は多くの部品の集合体なので、ユーザーにより当たる部品が多少異なるのである。
しかし「ディーラーに通って修理すると車への愛着がわく」と言う。安定期に入りせっかく調子が良くなった車を簡単に手放したくはない。これが長期保有につながるのである。
日本では古くなった車の価値は「秋に日のつるべ落とし」のように下がるが、米国市場では中古車が良い値段で売られている。安定期の車両の価値が評価されているのかも知れない。
◆初期不良が少ない日本車
ディーラーの門前にワランティ修理の車両が列を成していた米国市場に、日本から高品質車両が輸入されると、市場へのインパクトは大きなものがある。
初期故障があって当然と思われている市場に「初期故障が無いのが当然」と考える市場から商品が入れば「ちょっと待ってくれ」となる。
そして80年代末に米国の自動車メーカーは車両の保証期間を延長する。これは品質が向上したから延長したのではなく、高品質の日本車に対抗するためワランティ期間を延長してバランスを取ろうとしたのである。
しかし、日本メーカーは競争相手が保証期間を延長するなら、我々も延長する……と部品の品質を向上させて保証期間を延長させた。あわせて日本市場においても保証期間の延長が実施されたのである。
部品の品質が向上すれば補修需要は減少する。補修部品業界は 90年代以降、冬の時代に突入した。だが、ユーザーは品質向上の恩恵を受けているのだから、それで補修部品業界が縮小しても良い…と考えねばならないだろう。
しかし、最近、気になる事態が発生している。初期に故障が発生すればユーザーは「車は機械であり故障するものだ」と認識する。その後のメンテナンスにも気を配る。ところが初期故障が無いと、家電のような感覚で車を使い続ける。
それは良いのだが車は家電より長期に使用される。いくらゴム部品の耐久性が上昇しても半永久的に使える訳ではない。
昨年、問題になった松下電器のFF式石油温風暖房機事故はエアホースにクラックが入ったのが原因である。20年も使えば、当然このような亀裂が発生するのは予想できるが、家電感覚ではメンテナンスの必要性を誰も感じない。車の家電化は、こうした問題を将来に残す可能性があると心配される。
(編集長・白柳孝夫)