日米自動車・同部品交渉が米国の対日制裁期限直前の6月29日に突然合意した。
まずは「めでたし」という事だろうが、その後、一カ月以上も過ぎているのに正式な合意文書もまとまっていない。
今回の交渉では日米の自動車補修部品・整備業界の実態について、正確な認識のないまま議論が進められ、問題の本質とズレた数々の役立たずの処方箋が残された。
これは、今後に多くの問題を残すだけでなく両国の相互理解の促進を図る上でも障害にしかならないと思うし極めて残念である。
今回の議論は米国側の「事実誤認」により始まった。
この出発点となったのが「車検制度があるから米国部品が売れない」という大嘘である。整備工場の親父も、工場長も、油にまみれて作業しているメカニックも、一日何回ともなく部品を届けている部品商も、みんな驚いて卒倒してしまうような大嘘が何処から出てきたのか。
米国が車検制度を槍玉にあげた理由は「厳しい日本の車検整備の元では純正部品しか使用されない傾向があるから」だという。
その理由の第一は「純正部品しか使用しない傾向にあるディーラーが車検整備の殆どを独占している」からだそうだ。この背景には指定工場の殆どがディーラー工場であり、こうした「大資本でないと指定工場になれない」という理由がもっともらしく付いている。
整備白書などのデータを丹念に見ていけばこれが大嘘であることがすぐ解る。わが国の車検整備売上は年間約2兆2000億円。このうちディーラーは約7000億円でシェアは31%である。
リペアショップの整備全体に対するディーラーのシェアは38%であるから、ディーラーにとって車検は最も弱い分野である。車検整備で最大のシェアを持つのは独立系の専業工場であり44%である。(以上は1995年当時のデータである。参考までに最新データを下に掲載した)
米国部品の売れない策2の理由は「ディーラー以外の整備工場もカーメーカーや純正部品メーカーに資本支配されていて、純正部品を使わざるを得ない仕組みになっている」という。
これは整備現場の人なら誰でも解る大嘘だ。補修部品の中で車検部品は特に純正部品の弱い分野で、数多くの優良部品のブランドが揃っている。例えばディスクパッド、ブレーキシユーではアケボノ、エムケーカシヤマ、富士ブレーキ等の8ブランドが、ブレーキシリンダーでは制研、ミヤコ等の6ブランドが、エレメントでは東洋エレメント、日東工業等の9ブランドが市場競争を繰り広げている。
こうした市場競争の中で純正のシェアは低く、消耗部品、定期交換部品に車検時に同時交換されるオイル、ブレーキフルード、LLC等の機能ケミカルを含めたシェアでは50%程度である。
なお純正がそれでも50%のシェアを確保している理由は優良部品の品揃えが売れ筋に絞られているため、優良だけでは対応できないからである。純正部品のシェアが高いのはドアやバンパー等の事故部品や、故障により需要が生まれる各種機能部品等である。これらは純正部品しか品揃えがなく、米国でも純正主体の市場である。
日本の補修部品市場でシェアを向上させたいのなら車検部品を中心にした消耗部品(オイル・ケミカルを含む)の分野に参入することである。米国部品も品質的に優れており日本車に適応できることが前提となるが、こうした優良部品のラインナップに加えて貰えればシェアを伸ばす可能性も出てくるだろう。
優良部品のドル箱である車検制度を崩すことが米国部品の売上増に繋がらない事は言うまでもない。
(編集長 白柳孝夫)
参考・車検整備市場のシェア(平成12年版「整備白書」 社団法人日本自動車整備振興会)
専業・兼業
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1兆4103億円
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60%
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ディーラー
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8341億円
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35%
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自家工場
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1086億円
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5%
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合計
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2兆3530億円
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100%
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