消費税5%の重圧

 日本自動車販売協会連合会(自販連)が発表した 10月の新車販売台数(登録車のみ)は前年同月比17.1%減となり、再び「秋口から回復」の夢は崩れた。登録車は昨年4月の消費税率のアップから19 か月連続で前年割れしているが、本年5月頃より乗用車販売に底打ち感が出ていた。
 しかし、一向に展望が見えない景気動向に嫌気がさして消費は秋口からさらに冷込んだ。販売現場では「同じ不況の延長でも去年と今年ではまるで雰囲気が違う」と危機感をつのらせる。
 だが、クルマに対する消費者のニーズに全く希望がないかと言えば、そうでもない。同じく10 月から投入された新規格軽自動車の出足は極めて好調だ。
 クルマの買替えに対する潜在需要は大きいものの、先行き不安感の大きい現状ではなかなか代替に踏み切れない。ところが価格が安く税金の負担の少ない軽自動車なら買えるのである。
 それにしても、昨年4月の消費税率アップはタイミングが最悪であっただけではない。極めて基盤の弱い「日本の流通業の体力」を無視した点でも問題が大きいと思われる。
 もちろん税法上からは、消費税は事業者が「消費者が支払った税金を預かり納税する」もので、流通業の体力とは関係がないように思える。しかし、販売現場では確実に「商品の値上げ」として作用しているのであり、消費者も頭では税金と考えていても、気持ちの上では商品の価格と切り離して考えることは出来ないのである。
    
5%の利益を出している
流通業者はどれだけいるか?

 米国の消費税は州により違いがあるが8%程度、欧州では 15%という例もある。これに対して日本は5%、将来は 10%を越えるであろうという議論もある。
 しかし、日本の流通の現状からは消費税の5%は重圧だ。
 日本では地価、人権費、物流費が高く、さらに横並びで過当競争する体質のため利益率が極めて少ない。はたして5%の利益を出している流通業者はどれだけいるのだろうか?
 例えば自動車の場合、100万円のクルマなら消費税は5万円である。200万円のクルマなら消費税は 10万円となる。
 これに対して100万円のクルマを売った時のディーラーの利益はどれ程か。自販連の自動車ディーラー経営状況調査を見ても、経常利益率はほぼ毎年1%を切っており、 97年度は0・1%までダウンした。
 これは100万円のクルマを売っても利益はわずか1000円という計算になる。前年の 96年度は1・2%と久々に1%を越えたが、これでも1万2000円だ。こんな薄利業者が利益の数十倍の消費税を納めねばならないのが現状である。
 日本は米国に比べインフラコストが圧倒的に高いのに、物価の価格差が1・5倍程度(最近は逆価格差も出て来た)に収まっているのは「効率的な経営をしている」か、あるいは「薄利な商売を続けているか」のどちらかであろう。
 これに対して米国流通業の利益率は高く、大手ディスカウントストアですら7〜8%の営業利益率を確保している。

消費税の目的も不明確

 もうひとつの問題は消費税の目的が明確にイメージできない点である。欧州などでは消費税率が高いが、社会福祉に使用されることが消費者に明確にイメージできる。このため「自分達の役に立つ税金」ということで理解を得やすいのである。
 しかし、日本では消費税が何に使われているか分からない。自分達の役に立っているかが庶民感覚では掴めない。そのため単なる増税であり、商品の値上げとしてしか理解できないのである。
 このほか事業者の納税の仕組みの不透明さも、この税金を疑いの目で見る消費者を増加させている。例えば、課税対象となる商品の売上高が年間3000万円以下の事業者は納税義務が免除される。また、同2億円以下の事業者は消費税を厳密に実額で計算するのでなく、概算として納税できる。こうした制度により消費者の負担した税金の一部が事業者の手に残る、いわゆる益税もあるとされる。
 バブルの時と異なり「お金は1円でもお宝、意味の分からない金は1円でも出したくない」という現在、こうしたドンブリ勘定の税金がまかり通ることは庶民感情と大きく乖離している。
 日本側は無視を決め込んでいるが、今年の夏ごろ、米国より「景気対策のため消費税を3%に戻したらどうか」という提案があった。
 今の日本の実力では3%が精一杯ではなかろうか。
(編集長 白柳孝夫)