実態に即した規制緩和策を

 運輸技術審議会が 98年6月より継続審議していたトラック等商用車の車検期間、定期点検項目の見直しに関する第一次答申が発表された。車両総重量8トン未満のトラックは初回車検2年に延長。事業用トラック、バス、タクシーの1か月点検廃止。3か月点検、 12か月点検は点検項目を大幅簡素化という内容だ。
 今回の答申の最大のポイントは初回車検が2年となるトラックの区分であった。当初は諸外国との整合性(ドイツ、英国など欧州諸国の区分)の面で車両総重量(GVW)3・5トン程度という説が有力であったが、蓋を明けてみるとGVW8トン未満と予想を上回る内容となった。
 この区分を巡る審議の中では、「わかりやすいように1・4ナンバーで区分を」という意見も出されたが、結果として「大型免許と普通免許」「ナンバープレートの大判、小判」で分けられた。
 確かにドライバーの免許の違いで分ければ「わかりやすい」のは事実であるが、これで良いのであろうか。どうも市場の実態とズレた議論のような気がしてならない。 今回の規制緩和をめぐる議論は、全日本トラック協会など運送業者の業界団体から車検期間延長の要望が出されたことが発端だ。
 その論拠は「トラックは運送業者にとって生活の道具であり保守管理はしっかりやっている。車検期間を延長しても、自主管理が徹底しているので大丈夫だ」ということである。
 確かに大型事業用トラックでは、大手運送業者は自家整備工場を持ち運行前後を始め徹底したメンテナンスを実施している。事業用では運行管理責任者の設置も義務付けられており、車両の走行距離に合わせた整備計画も決まっている。こうした業者から「法定の車検、定期点検のインターバルで規制されることなく、自主管理でメンテナンスを行いたい」という要望が出てくるのは理解できる。
 それでは大型の自家用トラックのドライバーはどうか。長距離トラックのドライバー達も自分達の命を預ける車両のメンテナンスには熱心だ。仕事が終われば夕方から夜中まで、明日に備えてガレージで愛車の下に潜り込み、点検と整備に余念がない。
 大型車を販売した時に、車両添付品に「つなぎ」を採用しているディーラーが多いが、これも市場ニーズに対応したものである。
 一方、普通免許で運転出来る中型トラック、ダンプの世界は、少し様相が異なっている。彼等も愛車のメンテナンスに気を配りたいと思っているのだが「それどころではない」現実がある。例えば4トン積の中型ダンプでは運べる土砂の量が限られている。当然、単価が安いので何回も往復しないと日銭を稼げないのだ。新車を購入したばかりの時は、日中の工事、夜間の工事と朝晩働き「早くローンを返して楽になりたい」という状況だ。当然、愛車の下に潜って整備する時間も限られる。
 この他、都市内を走行する小型トラックにおいては、この不景気で走行距離が伸びている。
 大手企業では経費削減で車両の保有台数を減らしたので1台当たりの稼働率が上昇している。
 また、多頻度配送などでサービス性をアップさせて顧客を繋ぎ止めようとするため「儲からないのに走行距離だけは伸びる」という現象が発生している。1台持ちの自家用中型・小型トラックも同様で、景気が悪いので、近場の仕事だけでは食えなくなり、遠出するようになっている。
 それでも中型・小型トラックは平均走行距離だけを見れば、大型トラックに比べて短い。しかし、都市内のチョコチョコ走りはストップ&ゴーの連続で、エンジン、ブレーキ共に負担は大きいのである。
 さらに、問題となるのはメンテナンスの面では自家用乗用車よりも悪い状態にあることだ。
 大手宅配業者などの事業用車は確実にメンテナンスされているが、中型小型トラックは自家用トラックが多く、整備現場では「オイル交換をしようとドレンコックを開けても、オイルがコールタールに近い状態になっていて出てこない」「商用バンではブレーキ部品が摩耗し、ローターやドラムを削っている例が多い」という話しを聞くことが多い。こうした現況から考えると、運送事業者として規制の中にある事業用トラックについては、車検期間を延長しても、自主的な管理が継続されると思うし、運行管理制度の運用を強化することで対応も可能であろう。これに対し自主管理が定着していない自家用トラックの分野は、まず定期点検の実施率を向上させてから車検期間を延ばさないと、現場のメカニックが言うように「2年は持たんで」ということになりかねない。
 日本の法規制のあり方は「現実に起こっている問題を解決するため」というより「こうあるべきだ」というものが多い気がする。規制にしても、緩和にしても問題解決型のアプローチが望まれる。
(編集長 白柳孝夫)