顧客ニーズに対応した流通業者の調達力育成が課題
米国流通業のサービスは進んでいると聞いていたが、日本人の目から見ると意外とそうではない。こうした意見を米国転勤の体験者から聞くことが多い。
まず、第一に商品に品切れが多い。自分の気に入った商品を探したら、見付けたその場で買わないと二度と同じ商品に巡り会えない恐れがある。そこで卸商やメーカーから取り寄せを頼むと、これも品切れだったり、すでに製造中止となっている。運良く取り寄せが成功しても、デザイン変更や設計変更がされており、頼んだものとは別の商品が届くことがある。
こうした事態は日本人には我慢ならないサービス性の悪さと感じられる。商品は「それを求める消費者に平等に供給されなければならない」と信じられているからだ。また、日本の小売店もメーカーから商品の供給が滞ると「販売チャンスを失った」と怒る。
米国のメーカーは基本的に収益を第一に考える。マーケティングにもとづき生産量を決め、計画に従い生産して、売り切れば大成功である。売れるからと直ぐに設備投資をして工場を拡張すれば利益は減少する。残業すれば余分なコストが掛かる。だから「販売が好調だから契約以上に生産量を増やしてくれ」と頼んでも、必ずしも対応してくれるわけではない。
株主の利益を第一に考えねばならない米国で、企業収益の減少は責任問題になるからだ。
メーカーが需要の変化にあまりフレキシブルに対応しない伝統のある米国では、消費者との接点である流通業者がその役割を果たす。まず、人気商品は品不足でプレミアムが付き高く売れる。人気の出る商品を事前に予知して仕入れる目利きのバイヤーを抱える流通業者が成長し、売れない商品を仕入れた流通業者も値引き販売に努力する。アウトレットなど、こうした売れ残り商品を集めて安く売る業態が登場し、最近は各地に大規模なアウトレットモールが作られている。
そして、人気商品と言えども供給量に限りがある現実の中で、バイヤーは常に新しい商品の開拓に熱心になる。人気商品が品切れになっても、顧客を満足させる商品を多数仕入れておけば、その中から顧客のニーズを埋める商品があるかも知れない。ここにビジネスチャンスが生まれ、新規メーカーの参入等により市場に多彩な商品が流通し活性化していく。
一方、日本ではメーカーに対して商品の魅力や価値だけではなく、万全な供給体制を求める。
メーカーも品切れを恐れる余り、想定した需要より多めに生産し、販売促進費を奮発して何とか売り切ろうと頑張る。各社がこのように需要より多めに生産すれば、たちまち市場は商品が溢れることになる。
成熟市場では、どんなに良い商品であっても供給過剰となれば市場原理で価格は下がる。このため小売店は利益が出ずにメーカーの販促費のみが頼りとなり、メーカーも生産コストに加えて過大な販売コスト、物流コストを負担するため利益が圧迫される。
日本企業は良い商品を効率的に生産し、市場に対して万全な供給網を整備しても、なぜか儲からないというジレンマに陥っている。そろそろ終戦直後の物不足の時期や、その後の経済の高度成長期に染み付いた、品切れへの過剰な恐れから来る供給万能神話を見直すべき時代に来ているのではなかろうか。
そして今後は「需要より少し控え目に生産する経済」を試行して見てはどうだろう。
さしあたり、この経済効果として次の4点が考えられる。
1.計画的生産によりメーカーの生産性がアップ。販売コストの削減も可能となり収益が改善する。残業が減り、従業員の余暇が拡大し経済に良い影響を与える。
2.メーカーの供給力が弱まるが、そのマイナス要因を埋めるため流通業が主体となり顧客満足度向上のため様々なシステム、サービスを企画し導入を開始する。顧客ニーズに対応した流通業者の商品調達力も向上、流通業が本来の意味のサービス業となる。
3.メーカー各社が控え目に生産することで市場の需要を満たせない空白部分が出来る。その市場を目指し新規参入メーカーがオリジナル性のある商品を投入、消費者の選択肢が拡大、市場が活性化する。これにより既存のメーカーも刺激され「良い循環」が生まれる。
4.売れ残りの返品や廃棄処理がなくなるのでコストが削減、さらに資源の有効活用にも繋がる。
(編集長 白柳孝夫)