インターネット販売の誤解と真実

バーチャル市場の可能性を生かせ

 少し前のことになるが知人から「最近、ガソリンスタンドなどがインターネットで新車を販売している。国産・輸入各社のクルマを扱い、全国のどこからでも注文にも応じると宣伝しているが、どうして可能なのか」という質問を受けた。
 確かに多くのユーザーにとって自動車はディーラーで買う商品である。また「ディーラーは系列化されており自社のチャネルの取り扱い商品しか販売していない」「販売地域(テリトリー)も都道府県単位に分かれている」ことが常識となっている。
 こうしたユーザーにとっては、インターネットにより伝統的な商売のやり方が崩れ、新しい市場が出現したように映るのだろう。実はこれがインターネットの生み出すバーチャル市場なのである。
 現実の世界でも、業販店と呼ばれる業者は、従来から国産車の全銘柄を取り扱っていた。彼等は地域のディーラーと契約して新車を紹介販売しマージンを得ているのである。
 このように業販という形態を取れば整備工場であろうと、GSSであろうと、カーショップであろうとマルチブランドの新車を取り扱うことは難しくない。
 ましてクルマの売れない時代である。全国どこのディーラーでも「顧客を紹介する」という話を断るところは無いだろう。
 インターネット販売は「既存の小売り業態を浸食し、流通ルートを破壊する」という通説がある。しかし、現在、登場している車両のインターネット販売は、既存の商流を破壊するものではない。
 これは米国でも同様で、話題のオート・バイ・テルもディーラーと契約してインターネットでアクセスしてきたユーザーを紹介するインターネット・ブローカーである。
 米国では「忙しいので新車購入時の営業マンとの商談をプロに任せたい」というユーザーのために専門のブローカーが存在していた。百戦錬磨の新車営業マンと交渉して値引きを引き出すのがブローカーの腕であった。この職種のインターネット版がインターネット・ブローカーなのである。
 こうした新しい仲買業者に対して、米国のディーラーは商売のための媒体として上手く利用したいと考えている。ディーラーも自社のホームページでビジネスしており、これに併用して専門業者を活用したいというわけだ。
 昨年、訪問したある米国ディーラーでは、インターネット経由の車両販売が 10%に達していた。このうちオート・バイ・テルの紹介のものが6%、自社のホームページ経由が4%であった。
 現在、米国のディーラーでは、約3割の顧客がディーラー店頭を訪問する前にホームページをアクセスしているという。ただし、インターネットだけで契約まで行くケースは少なく情報を得てから実物を見て決めるのが一般的だ。
 こうした時代には営業マンに求められる仕事も違ってくる。
 一般的な情報は価格も含めて、すでにインターネットで開示されている。営業マンに必要なのは、より専門的な知識と顧客の身になった車両購入のサポートということになる。
 さらに、インターネット販売により取り扱い商品の幅を広げることもできる。最初から商品を限定することはないが、近くのコンビニやスーパーで売っている商品をインターネットで検索する人は少ないだろう。インターネット販売が盛んな商品領域は、書籍とかCDなどニーズが細分化され、近所のショップを回っても必ずしも入手できるとは限らない商品。さらに金融商品(株式など)やイベントのチケット、飛行機や電車の切符など購入に緊急を要する商品である。これを自動車市場に当てはめると嗜好性の強い用品や、クラシックカーの補修部品、中古・リビルト部品などである。車両についてもヘビーデューティの4駆やキャンピングカーなど特定の用途に使われるものが良いだろう。
 米国では、ジープディーラーが、インターネット販売で営業コストを削減、これを顧客に還元することにより全米からの集客に成功している例があるし、日本でもインターネットで各種ブランドの用品装着車を販売している業者が出てきている。
 インターネットは今のところ、既存の流通経路の破壊者ではない。むしろ、こうした販売手法を取り込むことで、既存の小売り業態はマーケティングコストを削減し、さらに発展する可能性が高まるのである。
(編集長 白柳孝夫)