電子商取引とショッピング文化

 インターネットによるオンライン販売がすでに大きなボリュームを占めるようになった米国では、小売業界への影響が心配されるようになっている。様々な調査会社から「専門店では2〜3年のうちに売上が5%減少、低価格化も進行し利益は半分になる。専門店の集合体であるショッピングセンターへの影響は、さらに大きくなる」との予想も発表されている。
 米国のインターネット利用者数は7900万人、一般消費者向けのネット販売の市場規模は約 80億ドル( 98年実績)といわれる。全米の3人に一人がインターネットを利用してホームショッピングを楽しみ、年間1人平均で100ドル弱の買い物をしたことになる。
 現在、ネット販売はコンピューターの周辺機器、金融商品、書籍、CD、旅行などが中心で、1回あたりの購入価格も100ドルから300ドルが6割強を占めている。
 これはインターネットが低コストで運営できるメリットがある半面、信頼性、機密性が低いからである。このため、何らかのトラブルで商品が届かなくても惜しくはない金額に止まっている。
 しかし今後、電子決済を可能にする高度化されたネット販売が実現すれば、一般の小売業への影響は深刻になるし、合わせて販売環境も変化してしまう。
 例えば消費者が購入を希望する商品を家庭やオフィスからインターネットで各小売店にアクセスし、比較検討することが出来るようになると、同じ商品ならば価格が一番安い店が選ばれることになる。
 従来、新聞の折り込みを丹念に見たり、多くの店を回り価格を確認する努力が不要になり、一瞬の操作でリアルタイムに価格比較が可能となる。これは店の側から言うと、店頭のディスプレイや雰囲気、接客サービスの品質や販売促進努力も関係なく、コンピューターネットワークの中で一瞬で勝負が付いてしまうことを意味する。
 これが、さらに進化すると自宅のパソコンに日常必要な商品をインプットしておくと、コンピューターが自動的に足りないものをリストアップし発注、契約した店から自動的に届くようになる。この場合も、その時点で一番価格が安い店に発注するようプログラムしておけば、バーゲンやタイムセールの情報を反映することが可能となるだろう。
 現在、インターネットで食料品や日用品を購入する例は少ないが、ネット販売の本格普及期には、こうしたシステムも可能になると推測される。
 このようなネット販売の普及は消費者のライフスタイルも変化させるだろう。流通業者にとっては、その影響が計り知れないだけに、対応に苦慮することだろう。
 しかし、重要な点は価格競争がネットワーク上で行われるようになった時点で、もはや価格競争は終わってしまうという点だ。
 なぜなら競争者の価格情報も、ネットを通じて把握できるとなれば、対抗する価格の設定が簡単にできる。このため各店の販売価格は限り無く似てくると想像できるのである。
 こうなると買い物も必要な商品を自動補充するだけの味気無いものに変わってしまう。おそらくネット販売時代の小売業の対応としては、ショッピングの楽しさを十分に演出し、消費者を店舗に吸引するしか方法はないだろう。ショッピングモールを歩いて、自分にピッタリの商品を発見する喜び。それらを実際に手に取り確認出来る魅力はまだまだ大きいと思われる。すなわち訪問するだけで発見があり、ワクワクするエンターティンメント性のあふれる店舗が必要なのである。
 ネット販売時代の到来に備え、流通業者は消費者に『レジャーとしてのショッピング』を楽しんでもらえる販売方法を、編み出す努力が必要となっているのである。
(編集長 白柳孝夫)

米国で最も単位面積当たりの売上額が大きいショッピングセンターとして知られる、ラスベガスの『フォーラム・ショップス』。入り口を入ると古代ローマの街路にタイムスリップ。空は夕暮れから夜へと刻々と変化し、それが抜群の演出効果を生んでいる。

モールの中央にある広場では定期的にアトラクションが上演され、その迫力にも圧倒される。